出雲路と381系やくも10

それはこの旅で最後に立ち寄った松江の八重垣神社からの帰りのタクシーでの娘の一言から始まりました。
「行きの寝台車で朝見た山のもくもくの所を帰りも通るの?」
帰りはその日の夜の出雲4号(伯備線ではなく山陰本線経由)のため、通らない事を娘に告げると「山のもくもくの中にたくさんの神様がいて、さよならをしたかったのに…」

私は娘のその言葉に驚きました。小学校にあがる前の娘のもくもくとは、まさに素戔嗚の日本で初めての和歌の中の八雲であり、出雲にかかる枕詞です。実は私も大学時代に文学部で学んでおり、文法的な枕詞の存在を知っていても、枕詞が抱擁する出雲の風土や神話までもを理解している学生は少ない。そんな教授の言葉を思い出しました。実際には娘がどこまでの枕詞の内容を理解しているかは解かりませんが、将来、習うであろう枕詞のためにも、その日の出雲4号をキャンセルし、翌朝一番のやくものチケットに変更した次第です。

その夜、ホテルでは地図を広げ、今日回った史跡の場所を探す娘がいました。地図は写真撮影愛好家にとっては旅の必需品で、今回のような家族旅行であっても私の趣味(実際は仕事でもあるのだが)から鞄にはいつも入れてありました。旅の初日に早朝の寝台車の窓から見えた山々にたなびく『もくもく』の場所が奥出雲の山々の裏側にあたることを教えると妙に納得している娘がいました。さて、明日は娘が再度みたいという山々にたなびく『もくもく』、八雲に会いに行くために出雲市から381系やくもに乗車します。

出雲市を朝6時台のやくもに乗車するとあって、コンビニでサンドイッチを買い込み、車内で食べることになったのですが、この381系やくもは振子式とあって酔いやすい車両で有名です。妻は娘が酔いやすい体質を心配していましたが…
案の定、伯備線に入ってから娘はグロッキーに。それでも新郷を通過したあたりから列車が深い山間に入り、車窓に映る山並みに幾重にもたなびく朝霧が現れると、娘は酔いも忘れて車窓のそんな風景に魅了されていました。

この日をきっかけに彼女にとっての381系やくもは特別な存在になりました。彼女にとっての381系やくもは単なる移動手段ではなく、彼女が興味を抱く古代の世界へといざなってくれる列車です。

余談ながら、その後、大学生になって古代史を学ぶ彼女にとっての古代の世界へといざなってくれる列車は増え続け、世界遺産の熊野を研究するためと、行きは85系南紀、帰りは381系くろしおの旅に付き合わされることに…
きっと南紀やくろしおも彼女を古代の世界へといざなってくれる特別な列車なのでしょう。

  • URLをコピーしました!
目次