勉強会~「koko」と「3びきのくま」~

4月初旬、世界的な音楽家の坂本龍一氏が亡くなったという訃報が突然入ってきました。その時に一番衝撃を受けていた制作室の長老が、今回の勉強会は坂本龍一の音楽と、ある童話を使わせてもらおうと言い出しました。

坂本氏といえばテクノポップ調のYMOかなと思っていたら、予想とは全く違った2枚のCDを取り出してきました。それが映画音楽などを中心としたピアノに絞った2枚の音楽CD『Ryuichi Sakamoto:Playing the Piano 12122020』と、坂本龍一氏のピアノに大貫妙子氏が言葉を綴って唄った『UTAU』です。それにしても童話とは?

左:UTAU 右:Ryuichi Sakamoto:Playing the Piano 12122020

ピアノの余韻を使った世界観が広がる坂本龍一氏の音楽の中、『UTAU』の中のある曲を聴いて驚きました。その曲というのが「3びきのくま」だったのですが、なぜ驚いたのかといえば題名と詩の内容がどうにも合っていないように感じたからです。
そして、音楽CDと一緒に用意されていた童話の絵本が「3びきのくま」でした。歌のタイトルと童話の名前がどちらも「3びきのくま」と一致している事にこの時点では疑問しか浮かびませんでした。

そもそも「3びきのくま」の原典は英国の童話で「ゴルディロックスと3匹の熊」です。あらすじとしては、金髪の少女(ゴルディロックス)が森に住む3匹の熊の留守中に家の中へ入り込み、スープの入った3つのサイズの器の中で、熱すぎず、冷たすぎない、丁度いい温かさの最後の器から全部飲みつくしてしまいます。
次に置いてあったイスに対して高すぎず、低すぎない、丁度いいイスに座って壊してしまいます。そして最後は自分にとって丁度いいベッドで眠ってしまい、帰ってきた熊に驚いて窓から逃げ出すというお話です。

日本ではロシアのトルストイによる「3びきのくま」の絵本で見知った人もいるのではないでしょうか。このお話から転じて「ちょうどいい状態」ということをゴルディロックス・ゾーンと表現するようになり、この概念に対してゴルディロックスの原理という名付けがされ、経済学や発達心理学、さらには宇宙生物学などでも分かりやすい例え話として用いられるようになりました。

さて、大貫氏が「3びきのくま」と名付けた曲は、もともと坂本龍一氏がシングルとして発表していた「koko」というインストルメンタル曲でした。「此処」や「心」などいろいろな意味を持つタイトルであった「koko」
この曲のメロディに大貫妙子氏が歌詞をつけ、できた曲のタイトルが「3びきのくま」です。自身、この曲は童話「3びきのくま」の内容からインスパイアされて歌詞を書いており、曲の制作がちょうど小惑星探査機「はやぶさ」の帰還と重なったことも影響して、詩のテーマが宇宙的になったとも述べています。

絵本の中でゴルディロックスが求めたのは、自分にとって居心地のいい場所でした。きっと宇宙空間の丁度いい場所「koko=此処」、そして「はやぶさ」が遥か彼方の宇宙を彷徨いながらも、還るべき自分にとっての居場所を探す「koko=心」とを重ね合わせて、「3びきのくま」という童話が宇宙への広がりを内包した歌詞へと昇華したように感じます。

童話「3びきのくま」の寓話性と坂本龍一氏の紡ぎ出した音楽が持つ普遍性を抽象化して捉えてみると、3びきのくまが果てない宇宙の歌詞で唄られることも決して驚くに値しないのかもしれません。今回の勉強会を私たち自身に引き寄せて考えるならば、これもまたアンビエンスなのでしょうが、童話や音楽を題材に学ぶことを抽象化して捉えてみると、これもまたいつかメイクアップシールの作成やジオラマ製作の糧へと繋がってゆくはずです。

今回の勉強会及びブログでご紹介した「UTAU」
大貫氏の唄う「3びきのくま」はdisc.1に収録。そして、坂本氏が作曲した原曲の「koko」はインストルメンタルとしてdisc.2に収められています。当然同じ曲であるはずなのに、歌詞に込められた意味を知ると、単なる驚きだけではない違った印象を受けます。CDをお持ちの方は是非聞き比べを楽しまれてみてはいかがでしょうか。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。
 

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