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トピックス~281系はるかシール製作に寄せて~
製作室では頻繁に勉強会を行っています。勉強会といってもパソコンソフト上のテクニックやデザイン上の技術論などを学ぶわけではありません。その勉強会の内容とは、例えば鉄道なら列車ごとに異なる内装の持つ空気感を、まずデザイナー自身がどのように感じ取るか。専門用語でいうとアンビエンスという言葉が当てはまるのですが、そのものの内包しているアンビエンスの存在そのものを学びます。
現実にあるもののデザインを行っていると、知らず知らずのうちに物体の解像度にこだわってしまい、兎角くっきりした表現になりがちです。しかし、そうしたデザインは得てして臨場感に欠けてしまいうもので、見る人の感情に訴えるデザインにはなりません。では、アンビエンスをグラフィックソフト上でどう表現するかという話へとなりますが、その時に重要になるのが“空気レンズ”という概念です。
ここで少し光学的な話になります。昔の写真レンズは顕微鏡のレンズを発展させた解像度重視のものでした。そうした中、ドイツのメーカーが解像度ではなくコントラスト重視のレンズを発表しました。それまでの顕微鏡レンズでは、例えばみずみずしさや柔らかさというものを表現するには程遠かったのですが、コントラスト重視のレンズはそうした雰囲気までの描写を可能にしました。
解像度重視のレンズでは収差を取り除くため、徹底的にハロを排除するという方向でレンズを設計していましたが、コントラスト重視のレンズは空気もレンズとして捉えることで、敢えてハロを写し込む構造になっています。要はハロの存在がなければ臨場感は生み出せないという大胆な発想の転換によって誕生したレンズです。
閑話休題。筆者の身近な例えで恐縮ですが、横川で有名な峠の釜めし。かつて横川駅のホームで買って、あさまの車内で食べた釜めしは本当においしかった記憶があります。横川-軽井沢間が廃止され、今でもドライブインなどで変わらぬ味のおいしい釜めしは食べられますが、ドライブインで食べる釜めしにどこかしら物足りなさを感じてしまう自分がいるのも事実です。私にとって峠の釜めしは、横川駅で買って列車のなかで食べてこそというハロに包まれているのです。
いささか乱暴なまとめ方ですが、アンビエンスとはここでいうハロそのものです。そして、ハロを描くためには解像度だけを追求したレンズではなく、ハロを活かす空気レンズをもってデザインを行わなければなりません。もちろん“空気レンズ”とはあくまで概念の話であり、実際のシール製作のうえでは、主に色のコントラストやぼかし具合を何重にもコントロールしながら、内装のデザインを作り上げていくことになります。
今回メイクアップシール化を行った「281系はるか」は、アンビエンスへのこだわりと空気レンズ的な製作手法についてこれまで以上に意識した製品となっています。
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すでにご紹介しました通り、今回13年ぶりにメイクアップシール「281系はるか」の完全リニューアル化を行いましたが、その直接的な理由の1つは7月に発売したメイクアップシール「E259系 成田エクスプレス(リニューアルカラー)」にあります。
国内に空港アクセス鉄道は数あれど、個人的にはモノレールを除けば東の「成田エクスプレス」、西の「はるか」が東西を代表する有名な空港アクセス列車だと認識しています。
開業は「成田エクスプレス」が1991年、続いて「はるか」が1994年という事で3年の違いはあるものの比較的近い間隔で運用を開始。しかも面白いことに、「成田エクスプレス」には京成電鉄の「スカイライナー」が。「はるか」には南海電鉄の「ラピート」という、どちらにも強力なライバルが存在するという点も興味深く思います。
こうした似たような環境にある空港アクセス特急「成田エクスプレス」と「はるか」ですが、目的が同じなので車内の構造も似ています。最も大きな共通点としては、海外旅行客に対応するために、車内に大きなキャリーケースを収納する大型の荷物スペースが設置されている点が挙げられます。
左:E259系成田エクスプレス 右:281系はるか
荷物置き場はプラバン加工によって再現いただけるようになっています。旧製品の「281系はるか」では奥側の壁面を通路側に設置する形になっていましたが、E259系成田エクスプレスではより実車通りになるよう荷物置き場の再現方法を変更しました。
同じ空港アクセス特急として「成田エクスプレス」のシール製作中、「はるか」でも同様の再現をすべきだという思いが頭をもたげてきましたが、シールのリニューアル化決定を後押ししたのが、「はるか」の運行開始30周年だったことです。
特急車両の寿命は一般的に30~40年程度といわれています。「はるか」もベテランの域に入ったわけですが、同時に老朽化による現役引退も意識しなければなりません。「はるか」の運行30年を振り返っても色々なことがあったわけですが、内装再現では登場からそれほど経っていない新人時代(?)の「はるか」を再現しています。
その為、2019年のコロナ禍以降の車内に貼られている抗ウイルスや抗菌処置済などのシールは再現していません。また、デッキに設置されていた自動販売機も稼働中の状態になっています。
尚、車内の壁面ポスターには実際のポスターとしては実在はしませんが、30年前の関西空港開業時の図案画像を再現しました。
左:E259系成田エクスプレス座席 右:281系はるか座席
「成田エクスプレス」と「はるか」は同じ空港アクセス特急として状況や車内の構造は似ていると述べましたが、それぞれの方向性には明確な違いが如実に表れています。
まず名前ですが、E259系の「エクスプレス」に対して、281系は「はるか」という和的な名称です。ロゴマークもE259系は飛行機なのに対して、「はるか」は京都のシンボル五重塔と富士山です。上の座席写真を見比べてもE259系は洋的な意匠となっていますが、281系は落ち着いた風合いを前面に押し出しています。
また、車両のイメージカラーについても「はるか」が青と白なのに対し、「成田エクスプレス」が白・黒・赤というのも対極になっているのも示唆的です。
今回のブログは、新製品メイクアップシール「281系はるか6両セット」リニューアル化のきっかけとなった「E259系成田エクスプレス(リニューアルカラー)」との比較を通して、「281系はるか」メイクアップシールの特徴も併せてご紹介させていただきました。
フルモデルチェンジ版メイクアップシール「281系はるか6両セット」は本日販売開始となります。また、「E259系成田エクスプレス(リニューアルカラー)」基本・増結セットもそれぞれ好評発売中です。
「281系 はるか 6両セット」>>
「E259系 成田エクスプレス(リニューアルカラー) 基本3セット」>>
「E259系 成田エクスプレス(リニューアルカラー) 増結3セット」>>
尚、「281系はるか6両セット」各車両の詳報は次回のブログにて掲載予定ですが、各車両の全体画像はオンラインショップでもご覧いただけます。